大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(あ)2766号 決定 1969年7月10日

本店所在地

三重県尾鷲市小脇町四一番地

紀州海工株式会社

右代表者代表取締役

川口渡

本店所在地

三重県尾鷲市小脇町一二七番地

合名会社共栄海運

右代表者代表社員

川口渡

本籍

三重県熊野市木本町五〇番地

住居

同県四日市市千歳町一番地の一

魚介類販売(元紀州海工株式会社代表取締役)

土屋静男

大正一四年七月二八日生

本籍および住居

三重県尾鷲市三木里町四五八番地

紀州海工株式会社代表取締役

川口渡

大正一五年一月一三日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、昭和四三年一一月一二日名古屋高等裁判所の言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高橋一郎の上告趣意は、違憲(一四条違反)をいう点もあるが、実質はすべて量刑不当の主張であり、弁護人入沢武右門、同美村貞夫連名の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

昭和四三年(あ)第二七六六号

被告人 紀州海工株式会社

同 合名会社 共栄海運

同 川口渡

弁護人高橋一郎の上告趣意(昭和四四年一月二九日付)

第一点 原判決は憲法第一四条に違反する。

一、原判決は、被告人紀州海工株式会社に対し罰金五〇〇万円、同合名会社共栄海運に対し罰金一五〇万円、同川口渡に対し懲役一年(執行猶予二年)、罰金一五〇万円を科し相被告土屋に対し、右川口と同じ刑を科した第一審判決を支持している。

二、被告人両会社は後に述べるように本件脱税によつて得た簿外資産のすべてを被告人土屋に交付して現にその利益を保有していない。しかも両会社の現況は本件脱税年度(三八年度)と三九年度の税額すら支払えない逼迫した計理状態にあり無理にこれを支払うときは倒産のうき目にあい、結局被告人川口がその個人信用で借財を重ねた多くの債権者に迷惑をかける状態にあることは第一審における第九回公判廷の大谷、栗山証言で明らかである。

すなわち、被告人両会社の負担は直ちに被告人川口の負担に帰するものであつて、両会社が罰金をかりに支払つたとしても一般債権者に対する債務は結局被告人川口が負担するものであるから、つまるところ両会社の罰金刑は被告人川口が負担するのと実質的には同一の結果に帰する。いいかえれば両会社は形式上は法人であるがその実質は川口の個人企業に外ならず、現在負債が資産を超過していることは前記栗山証言や審理の全過程から明白である。

従つて結局第一審判決は被告人川口に罰金八〇〇万円を科し相被告人土屋に罰金一五〇万円を科したと同一の結果となる。

三、もともと被告人両会社は法人の形式をとつているものの、被告人川口と、被告人土屋の両名のみが実質的にこれを所有していたこと、本件脱税後において被告人土屋が両会社から離脱したため、両会社は現在被告人川口のみの所有となり、しかも川口の責任においてのみ両会社が運営されていることは記録上明らかである。

四、してみれば、原判決が前記のとおり、上告人らのいいかえれば被告人川口に合計八〇〇万円の罰金を科したのに反し、後記のような情状も考慮せず相被告人土屋に一五〇万円の罰金を科した第一審判決を是認した処置は法の下の平等に反し、憲法第一四条に違反する。

第二点 原判決は刑の量定が甚だしく不当でこれを破棄しなければ著しく正義に反する。

一、原判決は、第一点指摘のとおり判の量定が甚だしく不当であるが、さらに被告人川口と同土屋両名の犯情を比較すれば被告人川口のそれが遙に軽いから右両名だけの量刑を単純に比較しても刑の権衡を甚だしく失している。

二、本件犯行の企画主謀者は被告人川口ではなく、被告人土屋であつた。

本件犯行が被告人川口と同土屋の共謀によるものであることは争わない。

しかしながら被告人両名の経歴性格は著しく相違しており、本件犯行について企画主謀した者が被告土屋であることは同被告人自身が「私は会社の将来のことを考え……脱税……しなければなるまいと(川口に)相談をもちかけま(した)」(土屋、検察官調書五項)と自認しているが、被告人川口も「土屋から私に……架空経費を上げたりして利益を減じようという相談をもちかけられ」(川口、検察官調書三項)とか、「土屋が…相談をもちかけ…私は無学のものですから経理のことはよく分りませんから……(土屋の)云われる通りに従いました」(川口、大蔵事務官調書昭39・10・22問五)とか、「私(川口)は「経理のことは判らないので任せます」と云つたら前社長(土屋)は「お前ではやれないからおれに任せよ」といわれました」(同問13)、とあるとおり、本件犯行を当初から企画し主謀したのは、すでにパチンコ店の脱税経験があり(第九回公判土屋供述)、かつ、戦前税務署に勤務していたことのある(土屋、大蔵事務官調書昭39・10・21問三)被告人土屋であつたことは明瞭であり、その後の実行行為も主として土屋が積極的にその任にあつた。すなわち、谷計理士によれば「私が三和銀行新宮支店に無記名の別途預金のため出かけるとき現金を数多く手渡してくれたのは土屋前社長の方です」(谷繁一、大蔵事務官調書39・10・22問17)、「別途預金全般については土屋前社長が知つている。」(同問21)、(具体的に隠し預金は谷が預つていたが土屋の相談を受けてやつていた……(川口は)土屋に任せていた」(第一審一一回公判川口証言)とある事実から明らかである。

三、本件脱税による簿外資産はすべて被告人土屋が取得しており、他の被告人らのもとには存しない。

昭和三九年五月被告人土屋の退社に際し手切金として本件脱税によつて得られた簿外預金八千万円と約束手形二千万円(ただし千五百万円は返還されたから結局八千五百万円の金員)のほか、四日市所在の会社所有不動産等が被告人土屋に交付されたこと、被告人土屋は税金(脱税発覚)を予測しないで交付された右金員につきその半分でも会社に返還する気持がないことは第一審九回公判大谷、土屋証言に明らかである。

当初名古屋国税局は土屋に交付された右簿外預金を会社資産と認識してこれに保全差押を継続し、会社に対し右金員の返還訴訟提起を示唆したこと、これによつて会社が土屋に対し右民事訴訟法を提起したところ被告人土屋は会社に対し六千万円とかの簿外投資をしていたと云い出し、その資金は土屋がパチンコ店の収益を脱税して得たもの(五年の時効完成)であると主張するに至つたことは同第九回公判栗山証言に明らかである。

ところで、土屋主張の右簿外投資は同人自身すでに明瞭にこれを否定し、「個人から法人(被告人会社)に引き継ぐにはすべて表で引継ぎましたから裏資金や裏負債は全くありません」(土屋、大蔵事務官調書昭39・10・21問三)と明確に答え、谷計理士も「引継の資産の評価については実際に土屋さんや川口さん立会の上調査しましたので計上漏れは全然なかつた」(谷繁一、大蔵事務官調書昭39・11・4問3)とか、「……厳格にやりましたので……財産の計上漏れ及び金額の間違いはなかつたと確信しております」(同、問五)とすでに答えられている。

すなわち、被告人土屋らが右証言を翻して急に簿外投資があるなどと云い出したのは、会社が前記民事訴訟法を提起した後のことに属し、その返還を免れるためであり、かつ、自己の受領した八千五百万円は債権の回収であるとして専らその課税を免れるためであつたこというまでもない。

その後国税局が前記簿外預金につき土屋が預け替えた事実から保全差押を解除して了つたこと、三九年度に右八千五百万円を債権として計上せざるを得なかつた会社が二重の税負担を避けるため前記民事訴訟法を取下げるよう国税局が再び示唆したこと、しかも右取下げにもかかわらず右国税局は三九年度の税額軽減措置をとらず、結局会社は三八年度(脱税年度)と三九年度の税額だけで一億一千万余円を負担する現況にあること、はいずれも前記栗山証言に明らかである。

結局本件脱税の対象であつた簿外預金はすでに土屋の手に渡つており、会社には利得が存しないのに二重の税負担を蒙つているが、反面被告人土屋は自己の受領した八千五百万円についてその課税を免れようと図り本件においても簿外投資ありとの主張をあえて継続している。

少なくとも被告人両会社に対する罰金刑は利得の存することを考慮に入れて科せらるべきであり、倒産を促すために科せられるものでないことはいうまでもない。

従つて上記事実からすれば被告人両会社に対する科刑は著しく不当というべきである。

四、その他被告人川口と被告人土屋の性格、犯情の相違

以上の事実のほか、被告人土屋が計理に堪能だが人望のない反面被告人川口が数字にうとく従業員らの人望が厚いこと、本件犯行当時被告人土屋は紀州海工の社長であり前記のとおり利得しているのに被告人川口は会社の専務で一円の利得もしていないこと、むしろその後の会社債務で苦しみ抜いていること、被告人土屋は自らすでにパチンコ店収益を脱税したと自認しているが被告人川口は全くの初犯であること、被告人土屋の本件犯行は計画的であるが川口のそれはむしろ偶発的であつたこと。川口の生活が質素でむしろみじめな家に住んでいると国税局査察官が語つていたこと等は同第九回公判大谷証言等から明らかである。

その他本件発覚直後第一回の取り調べに際し被告人土屋は「不正なことはしていません」「私は名目だけの社長です」(土屋、大蔵事務官調書39・10・21問四)などとしらをきつて否認していたが、被告人川口は最初から「正しく申告されていません」(川口同39・10・22問4)と素直に犯行を自供している。さらに被告人土屋は査察当時「定期預金や投資信託預り証等を畳の下や置時計の中、勝手場等へ分散して」おくなどその犯情は到底被告人川口のそれと比較すべくもない。

五、以上の事実からすると原判決が是認した被告人両会社と被告人川口に対する量刑は被告人土屋のそれと比較して著しく重きに過ぎ、刑の権衡を失し刑の量定が甚だしく不当で正義に反すると思料する。

以上

昭和四三年(あ)第二七六六号

被告人 土屋静男

弁護人入沢武右門、同美村貞夫の上告趣意(昭和四四年一月二九日付)

第一点 原判決は法令の解釈適用を誤り、その結果、審理をつくしていないので、破毀せらるべきものである。

一、本件の争点

1 弁護人の主張

本件で弁護人が争つているのは、紀州海工株式会社が昭和三六年四月に設立された際に、被告人土屋静男が被告会社に対して引継いだ事務所兼住宅、倉庫、車庫、労働者寮、工作場、火薬庫(二棟)、舗装道路、埠頭(一号、二号)、木橋、砕石機械、水道施設、地上権等の固定資産の投入額の合計価額が金八四、九五六、〇〇〇円であつて、この価格が同被告会社の取得価額であるにもかかわらず、同被告会社では右のうち、火薬庫、木橋、水道施設については、これを同被告会社の帳簿に計上せず、その他のものについても、その価額をそれぞれ圧縮して、その合計金一九、八〇三、八〇〇円と計上して、その差額六五、一五二、二〇〇円については同被告会社の帳簿に全然表現されていないが、これ等のうち前記地上権等を除いたその他の減価償却資産については、法人税施行細則六条によつて別表「法人の記帳外資産の減価償却計算表」の通り、本件起訴決算年度において金六、三三六、〇七九円の減価償却が認容せらるべきであると主張しているのである。

2 これに対し、原判決は「簿外乃至秘匿資産は、それが匿されている限り、未だ課税標準算定の対象となり得ないものというべく、また法人税法上減価償却資産につき、その償却額をして、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に導入されるためには、法人が当該事業年度において、自ら償却費として損金経理することを前提とするものである」との見解によつて弁護人の主張をしりぞけている。

3 そこで問題になるのは、

イ 昭和四〇年三月廃止以前の法人税法細則第六条の「法人が固定資産を取得した場合において、当該固定資産の取得後又は製作に要した金額の全部又は一部を損金に計上したとき………」の損金に計上したときとは、どういうことを言うのか。

ロ 原判決は「簿外乃至被匿資産はそれが匿されている限り課税標準算定の対象となり得ない」というが、成程一般的にはそうかもしれないが、本件の場合、被告人は自らその存在を具体的に主張し、立証しようとしているのに、それを全然無視して取合わないでいて、秘匿資産であると勝手なことが言えるのかどうか。

ハ 原判決は、減価償却上損金に計上するためには「法人が当該事業年度において自ら償却費として損金経理することを前提とする」といつているが、そうだとすると細則六条の所謂不表現償却資産の看做し償却規定は如何なる立法乃至存在理由があるのか、なぜ法律は「みなす」という擬制規定をおくのか。

等である。

弁護人は右三点につき原判決の見解が誤つているということを解明することによつて、裁判所が細則六条の法令の解釈を誤つていることが明かになると思われるので以下細説することにする。

二、細則六条の「損金に計上したとき」とは判りやすく言えば法人が減価償却資産を取得した場合において、当該固定資産の取得又は製作に要した金額の全部又は一部を資産に計上しないときをいうことである。これが弁護人の結論です。

1 ところで原判決は、弁護人の主張に対して「所謂、簿外資産は帳簿上表現されないこと自体によつて当該会社の貸借対照表上資産の都の合計額が帳簿上に計上された場合に比し減少することになるのだから、即ちそれだけ損金に計上したことにほかならないというが、これは会計技術に基き貸借対照表に現れる損益計算の概念と法人税法上の損金性並びに損金経理上の観念とを混同した思考方法であつて到底採るを得ない」として斥けております。

原判決は大変むずかしい言葉を使つて弁護人等の思考の混同だと言つているが弁護人はあく迄法人税法施行細則に所謂「損金に計上したとき」について税法上論じているのであるが、会計技術が未熟であるのかどうかしらないが、残念乍ら原裁判所の言うことが理解出来ないのである。弁護人等は昭和四二年八月三一日付陳述書の四枚目「みなし償却」の項で六枚にわたつて詳細述べているのであるから、原判決はこんな卑法な逃げ方をしないで、もつと正面から答えて然るべきである。

2 細則六条及び法人税基本通達二一七の四(昭和三四年政令第八六号による一部訂正)に所謂「不表現償却資産のみなし償却」とはどんなものか。

一般的に減価償却額は、法定の範囲内で法人が減価償却費として計上した額を、当局は税務計算上減価償却費として損金算入を認めるのが原則である。

ところが法人が減価償却資産を記帳外として隠匿しているものを税務当局が発見した場合には、法人が当該資産の減価償却費として自ら記帳していないにも不拘、当該固定資産を減価償却したものとして税務所得の計算を行うことをみなし償却というのである。(この場合法律による一部償却否認が行われるのであるが、この点は前記上申書で詳述してあるから御参照下さい。)而して細則六条は法人が対価を支払い若しくは対価を負担して取得した減価償却資産の全部又は一部を資産に計上しなかつた場合におけるみなし償却の規定であり、右通達は左記の通り、法人が対価のない贈与によつて減価償却資産を取得した場合とか(全部贈与)又は時価に比し著しく低額で取得した場合(一部贈与)その贈与を受けたとみられる部分の価格が記帳されていないならば、その簿外部分は償却したものと認めるというのである。

(贈与又は低廉取得資産の減価償却)

「法人が贈与により減価償却資産を取得した場合又は時価に比し著しく低額で減価償却資産を取得した場合のその資産の価額のうち贈与を受けたと認められる部分がある場合において、当該減価償却資産の記帳価額に贈与を受けたと認められる部分が含まれていないときは、その含まれていない価額については減価償却をなしたものと認めるものとする」

3 細則六条の「損金に計上したとき」の解釈

弁護人等がなぜ右通達を持出したかといえば、その法意が全く同趣旨で、唯、異るのは細則六条が有償取得の場合で通達が無償の場合の規定であり、その文言を比較するためである。

イ 細則は「償却をなしたるものとみなす」と言つておるが通達はずつと砕いて「償却をなしたものと認めるものとする」と平易な言葉で言つているが文意は同じである。

ロ 細則六条は「全部又は一部を損金に計上したときは」といつておるが、通達は、その意味を裏からとらえて「償却資産の記帳価格に贈与を受けたと認められる部分が含まれていないときは」規定しており、これは大変平易で誰にでもわかります。

そして、この二つの意味が同じであることは誰にでも理解出来ます。

以上の結論は次の様になります。

ハ 有償の場合

金を支払つたり、債務を負担して償却固定資産を取得した場合に、その儘の額でその資産を計上し、その支払金額乃至負担債務を計上するとすれば問題はないが、

(A) 取得資産を全部計上せず、従つて支出も全然記帳しない場合(取得の全部を損金に計上した場合)

(B) 取得資産は記帳しても時価乃至取得価格を一部計上しない場合(一部損金計上)

ニ 無償の場合

(A) 全部贈与の場合(全然資産として記帳しない場合)

(B) 低廉取得(一部計上もれ)

この様なときは税務当局はいづれも法人が記帳しなかつた部分は減価償却をしたものとして取扱うことになつているのである。

4 細則六条の「損金に計上したとき」という意味が、裏返せば、「その取得物件を資産に計上しないとき」と同意語であることは大蔵省の見解であり立法者の意思である。

大蔵省税制第一課の吉牟田勲が本条を解説した税務広報昭和四〇年六月特大号一五〇頁上段にある説明によると「旧法施行規則第六条では減価償却資産の取得価格の全部、又は一部を資産に計上しない (簿外等で取得した資産を含む)場合には、その計上しない取得価格相当額を償却したものとして取扱うこととされていた云々」と述べており、尚、同人の証言によれば、この見解に対して全然異論もなく、これと全く同じ文章が政府の税制調査会の「税法整備に関する答申」というので、一言一句違わず出されておることが明かです。

右税制調査会の答申によると「減価償却資産の取得価格の全部又は一部を資産に計上しない場合」となつており、右細則六条の「損金に計算したとき」と同一の意味に使われております。

尚、本件は減価償却固定資産を土屋に対する簿外債務で取得したケースであるが、右税制調査会の答申にはわざわざ(簿外等で取得した資産を含む)と注意的挿入文言があることに特に御留意頂きたい。

要するに弁護人の主張は、細則六条に謂うところの取得価格を損金に計上したときというのは、わかりやすく言えば、取得した物件を資産に計上しないときということと同じ意味であるから、被告会社が土屋から取得した減価償却固定資産を一部は全然資産として計上せず一部はその取得価格を極端に圧縮して帳簿に計上しておるのであるから、細則六条の解釈上、帳簿に計上されない部分又は圧縮隠匿された部分の対価は、右六条の「損金に計上したとき」に該当するというのである。

要するに実際に金が出たり、債務が増えること自体は観念的には損失ではあるが、一方それに見合う資産が計上されれば、会計上損失にはならないわけであるが、見合うべき資産が計上されなかつたり、圧縮計上の場合は、記帳外の資産に対応する支払乃至債務負担は、会社経理上は損失計上となるかけである。

原審は損金に計上したときという場合の計上の辞句にとらわれて殊更に帳簿に記載することが計上だと思つているのかもしれないが、これは会計、経理上の約束ごとで計上の字句にこだわる必要はないのである。

実際問題として資産を隠匿して記帳しないのに、それを取得した対価を記帳することは技術的に出来る筈がないのである。このことが細則六条の損金計上である。

三、原判決は「簿外ないし秘匿財産は、それが匿されている限り、未だ課税標準算定の対象となり得ないというべく云々」と言つて恰も、本件弁護人等の主張する不表現資産が、依然として隠匿された儘であるから、課税標準の対象として算定するわけにはいかないのではないかという意味のことを述べている。

然し、これはまさに詭弁も甚しいものである。

1 弁護人等は一審裁判以来、詳細且つ具体的に不表現資産の存在を主張し、且つその具体的な証拠をあげて検察官及び裁判所にその取調方を追つているのに、裁判所が言辞を弄して逃げ廻つておるのであり、この場合を「それが匿されている限り」に該当しないことは明白であり、そんなことを言うのは原審の恣意に過ぎない。即ち、

イ 隠匿財産の明細

引継勘定修正表、引継勘定実際投入額明細表、川口渡被告、土屋被告の供述等をあげて詳細具体的に主張しておるのである(弁論要旨第四章「会社の不表現資産は厳として存在する」のところで詳述しているので援用する)

ロ 土屋の金の出所(資金源)

第三相互銀行作成の「土屋静男貸金調」

銀行借入金明細書の集計表

土屋静男の資金運用表

以上は要約であるが詳細には弁論要旨第五章土屋の資金の運用の実際に陳述してあるので援用する。

2 この様に弁護人等は一審以来、不表現資産の厳存することを訴え、それが取得に要した資金の出所、その額を明かにし、且つ不表現資産が存在することに対する被告人川口渡の供述及び土屋供述を指摘し、更に立証として検証、鑑定、証人尋問等を申立て、声を大にして裁判所が、それ等の証拠調をなすよう請求したにも不拘、弁護人等の請求を理由もなく却下しておき乍ら判決の理由において、前述の如く「簿外ないし秘匿財産は、それが匿されている限り、未だ課税標準算定の対象となり得ない」というに至つては、まことに心外で開いた口がふさがらむいとはこのことを言うのであろう。

弁護人主張及び証拠取調の請求を自ら却下し、そして不表現の存否を調査しようとせず、自ら目を覆つておきながら依然として匿された儘であるから計算するに由なし、というのが原判決理由である。

原判決のいうこんな理由が、法律の世界でまかり通る筈のないことは最早や多言を要しない筈である。

四、更に原判決は「法人税法上減価償却資産につき、その減価償却額として各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるためには、法人が当該事業年度において自ら償却費として損金経理するものであることを前提とするものであること(即ち当然には償却されるものでないこと)以上の諸点にかんがみると、いわゆる簿外の固定資産の如きは、仮りに存在したとしても、ただそのことのみをもつて法人税法上その取得又は製作に要した金額の償却をしたものとして取扱うべき根拠はないというほかはない。云々」と説明して細則六条に違反しないと断定しているのである。

この点については弁護人は、然らざる理由を昭和四二年八月三一日付上申書及び弁論要旨書第六章「簿外償却資産のみなし減価償却問題」において、予め詳細に述べておいたのに、まだ解つてもらえないので、どう説明したらわかつてもらえるか、言葉に窮するのであるが、以下重ねて要点を述べます。

イ 法人の減価償却が損金に算入されるためには、法人が当該事業年度において自ら償却費として損金経理するものであることを前提とするものであること(即ち当然には償却されるものでないこと)は、通常の一般的原則であることは認めます。但し、ものには例外があります。

細則六条及び前述の贈与の場合の基本通達第二一七の四の場合は違います。

ロ 細則六条及び右通達の場合は、納税者である法人が「自ら償却費として損金経理」をしなくても、税務上、当局は減価償却をしたものと、看做して処理しなければなりません。この場合の償却は法が擬制するものであつて、納税者の作為は必要ありません。この理論は所蝟「看做し規定」として疑いを挾む余地はないのです。税務官吏はそうする義務を負わされておるわけで、その他の方法は許されません。

ハ では細則六条とか基本通達二一七の四はどの様な必要から制定されたのでしようか。これかわかつてもらえば原審の様な論理の混乱も矛盾もなくなると思います。

税務署や国税局に、納税者に対する調査とか査察の強権が与えられておるのは、隠匿財産を発見し経理の不正をあばき、財産の実体を正直に正式帳簿に表現させ、それによつて適正な徴税を期するためであります。

従つて、調査、査察の主なる目的は正式に記帳されない資産、即ち、不表現資産の摘発にあります。而して、この場合減価償却の対象になる不表現固定資産を発見したときは、直ちに表面に出します。その場合に減価償却の対象となるものは、その取得時から摘発時迄の経過年数だけの償却に対応する価値が減少していると見るのが公正です。

財産を隠匿していた罰として、取得時の価格を摘発時にその儘持つてくるのは酷だから、経過年数の償却を認めてやろうというのが、改正前の細則六条の趣旨で、唯その償却方法として一応全部償却したものと看做して償却残相当額を否認して表面に出すという計算方法をとつたものである。

従つて、細則六条は法人自らの申告によらず摘発せられた減価償却資産の取扱規定であり、納税者を規制するというよりも徴税官吏に対する取扱いを規程しているものであるから、原判決が謂う様に「法人が自ら償却費として損金経理をする云々」の「自ら」という意味は出てこないのである。

ニ 税務当局の一般の取扱いにおいては

(1) 税務当局が法人の簿外資産(隠匿財産)を摘発する。

(2) 当局は細則六条によつて税務計算をやり、税金の更正決定をやります。

(3) この場合、本人が簿外資産をあとで正式に記帳するかどうかは問題ではありません。

(4) いわんや法人「自らの申告云々」はこの場合問題になりません。

(5) 更正決定では、税務当局は法人が自らなした納税申告書による公表資産と、独自に調査した結果得られた実際の資産との対照表を作ります。

これが所謂修正表です。これは職権で作成するものでありこの表では隠匿財産中細則六条のみなし償却をなして税務計算上正式に組込みます。

(6) そして脱税額を算出決定します。

(7) 特殊なケースは右修正表にもとづいて裁判所へ起訴します。

細則六条によるみなし償却に該当するケースは弁護人の知る限り、みなし償却をしない修正表を見たことも聞いたこともありません。

(8) 以上の様に税務当局の更正決定は、当局の職権によつて行うものであるのに、原判決の様に法人が自ら申告しない限り償却による損失是認はあり得ないとすれば、細則六条は全く死文となつてしまうわけで、そのようなことはあり得る筈がない。

要するに、原判決は弁護人等の主張を詳細に検討することもせず、従つて正面から取組んだ判断もせず、唯、形式的に理由にならない理由で細則六条の適用をしりぞけ、従つて、細則六条の適用のない本件では、仮りに不表現資産が存在してもだめなのだから証拠調の必要はないと謂うのであるが、以上詳細に述べた如く原審の解釈は全然誤つておるので、破毀差戻しをお願いします。

第二点

昭和四〇年四月一日施行の改正後の法人税第三十一条によると「内国法人の減価償却資産についてその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理した金額のうち、その内国法人が当該資産について選定した償却の方法……に基づき政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額とする」とあり、法人の事業年度の所得金額の計算するとき減価償却資産の償却費として損金に計算できるのは法人が損金経理をしたうち、その法人が選定した償却の方法に基づいて計算した金額だけが損金としてみとめられる即ち損金とし益金から控除されそれだけ所得が少くなり従つてそれだけ法人税が少くてすむことにするためには法定の償却額というだけでは足らず、その上償却費として「損金経理」をしなければならぬことになつた。

そして「損金経理」とは法人税法第二条二十六に「法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう」とあつて、その法人の確定した決算で費用又は損失として経理されていなければ償却費として損金に算入できないことになつた。

しかし、右法人税法の改正前にはこのような改正後の法人税法第二条二十六に定める「損金経理」をしていなければならないという制約はなかつた。

即ち、改正前の法人税法施行細則第六条には「法人が固定資産を取得した場合において当該固定資産の取得又は製作に要した金額の全部又は一部を損金に計算したときは第三条、第三条の五、又は第四条の規定の適用については当該資産について損金に算入した金額に相当する金額の償却をなしたものとみなす」と「みなし償却」の規定をおき法人が固定資産を取得したときは元来はその取得に要した金額、製作に要した金額を全部固定資産の部に計上すべきところ、もしその法人がその取得額の全部又は一部を固定資産の部に計上しなかつた場合はその計上しなかつた額だけ「償却したものとみなす」と規定した。

尤も「償却したものとみな」したところで償却したものとみなされるだけで、損金に計上することは許されず償却したものとみなされた固定資産が土地など償却を許されない場合は償却したとみなされる全額が償却を否認され損金には算入されず、又仮令建物機械などの減価償却がみとめられている固定資産であつても「当該固定資産の当該事業年度の償却範囲額以内の金額」のみが所得の計算上損金に算入できるだけで、その余は償却を否認され損金に算入することは認められないのである。

換言すれば、償却したとみなされても損金として計算し所得を少なく計上し法人税を少くすることは許されないのである。

このことは改正前の法人税法施行細則第三条に「規則第二十一条第一項の規定により法人の各事業年度の所得の計算上損金に算入する同項各号に掲げる固定資産の償却額は当該法人が当該事業年度においてなした償却の額(当該事業年度前の事業年度においてなした償却の額のうち各事業年度の所得の計算上損金に算入されなかつた金額を含む)のうち、当該固定資産の当該事業年度の償却範囲額以内の金額とする」との規定によつて明にされている。

そこには改正後のように「法人がその確定した決算において費用又は損失として経理する」ことは毫も要求されていなかつたのである。

しかして本件は紀州海工株式会社の昭和三八年四月一日から昭和三九年三月三一日までの事業年度における法人税に関する事案であつて、改正前の規定の適用があり改正後の法人税法が適用される案件でないことは云うまでもない。

しかるに原判決は昭和四〇年三月三一日廃止となる以前の法人税施行細則六条の「法人が固定資産を取得した場合において当該固定資産の取得又は製作に要した金額の全部又は一部を損金に計算したときは」とある「損金に計算した場合」とは、法人の確定した決算において、帳簿上、費用又は損失として損金経理したことを意味するものと解するのが相当である。所論は、簿外資産は帳簿上表現されないこと自体によつて、当該会社の貸借対照表上資産の部の合計額が帳簿上に計上された場合に比し減少することになるのだから、すなわち、それだけ損金に計上したことにほかならないというが、これは、会計技術に基き貸借対照表に現われる損益計算の観念と法人税法の損金性並びに損金経理上の観念とを混同した思考方法であつて、到底採るを得ない」と判示したのは正に前記改正前の法人税施行細則第六条、同第三条の解釈を誤つたもので、到底破棄を免れないものと思料する。

第三点

原判決は「税法上、資産は、一般に損益いずれにせよ課税算定の対象となるものであるが、簿外ないし秘匿資産は、それが匿されている限り、末だ課税標準算定の対象となり得ないものというべく、また法人税法上減価償却資産につき、その償却額として、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるためには、法人が当該事業年度において自ら償却費として損金経理することを前提とするものであること(すなわちち、当然には償却されるものではないこと)以上の諸点にかんがみると、いわゆる簿外の固定資産の如きは、仮に存在するとしても、ただそのことのみをもつて法人税法上その取得又は製作に要した金額の償却をしたものとして取扱うべき根拠はないというほかはない。又低価記帳の固定資産の帳簿上の価額と実際の取得価額との差額についてもそれを償却額とみなし得ないことは同断がある」と判示して上告人の主張を排斥した。

しかし簿外資産や隠匿資産が匿されている限り、即ち税務官吏に発見されない限り課税算定の対象とならないことは云うまでもないことであるが、かかる簿外資産や隠匿資産を発見してこれを課税の対象に引き入れることこそ税務官吏に課せられた職責である。

本件では紀州海工株式会社にかかる簿外資産即ち隠匿された資産があるかないかゞ問題になつているのであるが、上告人は右会社にはかかる簿外資産があり、又記帳された資産は取得価格により遙かに低い価格で記帳されていると主張する。

これに対し紀州海工株式会社の側では簿外資産や低い記帳の資産があることが判ればそれだけ会社の益金が増し、法人税を多く賦課されるのでこれを否定している。

そこでもし右会社に上告人の主張するような簿外資産があつたとすれば税務官吏はこの簿外資産を課税の対象としなければならない筈で、昭和四〇年三月三一日改正前においてはその方法として「みなし償却」という方法が採られたのである。

勿論、償却とみなしてもそれを直ちに損金に算入するのではなく法人が固定資産を不当に償却したとみなしてその償却したとみなされた額(全く簿外にした場合は取得価額の全部-又低い価額で記帳した場合は真実の取得価額との差額)が償却否認(換言すれば不当な償却)として資産に算入されて課税の対象となるのである。

只、前記改正前の法人税施行細則第六条の存在していた間はこのような場合でもその不当な償却とみなされる額のうち正当な償却額即ち規則第二十一条の三第一項、施行第三条の五、第四条によつて当該事業年度に為しうる償却額だけは損金に算入することが許されていたのであつて、弁護人はこの点を主張するものである。

改正後は償却したものとみなされた額はその儘全額資産に算入され当該事業年度に当該固定資産につき、本来損金に算入することを認められる額と雖も法人の確定した決算で損金経理をしていない以上損失にみとめられなくなつたことは前論旨に明にしたとおりである。

原判決は全く法人税法の解釈を誤つて居り、到底破棄を免れないものと確信する。

以上

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